君が君を好きになって。

8/1。

夏休み前半最後の文化祭準備の日だった。

「小玲?」

帰りの電車の中、碧が後ろに立っていた。

「え、あれ!?今日学校来てたの?」

「試合前だからちょっとサボっちゃった」

「そうなんだ…あ、明日」

思い出したように菜束が言うと、碧は手すりを軽く二度叩いた。

「あー!お姉さんの学校って何処なの?」

「西新井…の駅で待っててくれれば案内するから、気にしないで」

「そっか。じゃあ3時に西新井の東口に立ってるな」

その時は、何をすべきだとか、そんなことは何も考えて無かった。
ただ、菜緒子のことだけが気掛かりで、言うべきか否か、それだけは菜束の悩むべき場所だった。

「でも俺がいきなり居たら変だよね」

「あ…そうだね。じゃあ近くで見てる?」

「えー?…まぁ小玲とお姉さんの問題だからなぁ。うん、待ってる」

碧は何とも言えない顔で窓の外を眺めていた。
とはいえ、まだ地下鉄線内なので、真っ暗な景色が広がっているのだが。

菜束から見た碧の横顔はやっぱり透明で、何が透明かと言うとまたそれは違う気がする。
不思議な存在だと、菜束は感じた。

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