君が君を好きになって。
「え…っ」
「聴いて行きなよ、ね」
音楽室の扉が開いた。
瞬間、ぶわっと音が広がったのが菜束には判った。
「おー、弾いてる弾いてる」
菜束は素直に感動した。
暗くて、厳しい曲だった。
怖くて、悲しい曲だった。
低い音が響く度に足が震えて鳥肌が立つのが痛いほどに判った。
でも、曲自体よりもさらに、彼の弾き方。
──強くて、優しい。
音楽なんて知らない菜束でも、凄いと判る。
菜束は資料を抱き締めた。
──何て言う曲?
──作曲家は誰?
──どういう時代の曲?
何も知らない。
何も知らないけれど、
綺麗。
「────…綺麗」
少年は菜束がそう呟くと菜束へ笑顔で応えた。