君が君を好きになって。



「葉太、帰ってる?」

部屋をノックすると、ドアが開いて、
髪がくしゃくしゃの葉太が現れた。

「うん…寝てた。何?どうしたの?」

「ご飯食べよ。話すから」




菜束は一切の嘘は無しで真実を語った。
葉太は困ったように眉をひそめ、何とも言えない表情をしていたが、思いきったような顔をすると菜束を見上げる。

「まぁ、あれでしょ。それは嘘って言わないと思うよ。それに姉ちゃん俺にもう本当のこと言ったみたいだし」

「…うん」

「ね。食べよ食べよ。子供は明るく行くのが売りなんだから!」

葉太の言葉に菜束も笑った。
そうなんだ。

──私たちはまだ子供なんだ。
だからきっと、大丈夫。

「そうだね。頂きまーす」



二人は手を合わせた。












ガチャ。

鍵を回すと、玄関の電気が付いた。

「只今」

返事の無い筈の挨拶を小さく溢す。



─────綿貫 翠
        桜乃
        碧


カララ…

トン。

「!」

無い筈の物音に、嫌な予感に、碧は足が地面に張り付いたように動けなくなった。

< 64 / 102 >

この作品をシェア

pagetop