君が君を好きになって。
怖い。
「──…碧か」
目があう。
怖い。怖い。
「…──ん」
かすれて声も出ない。
何をそんなに怖がっているのだろう。
自らの父親に対して。
「──久しぶり」
笑い掛けた碧の視線から自分を外して、父親、翠は踵を返した。
「お父、さん──夕飯は」
「要らない。お前のは机にある」
「──…ありがとう」
碧はこの空気に耐えきれなくて壁に左手を置いた。
──駄目だ。
翠の姿が廊下から消える。
碧はずるずると壁伝いにしゃがみこんだ。
「駄目だ──…」
「白羽、碧君から電話よ、はい」
「?うん」
白羽は部屋に電話の子機ごと入ると、受話器を耳に当てた。
「もしもし?」
「──…もしもし?しろ?」
「うん、何かあったの?」
「え…──その、…父親が」
白羽は目を見開いた。
「帰って来た!?」
「一ヶ月は居る、らしいけど」
「お母さんは?」
「まさか。帰ってないよ。じゃ、それだけというか…」
「うん、…あ、そうそう聞きたいことが在ったんだ。いい?」