君が君を好きになって。
「夏実ー、おはよう」
「…」
夏実は事件以来一言たりとも話さなくなった。
警察にはある程度話すらしいが、菜緒子とは目も合わせようとしない。
菜緒子は別に辛くない…といえば嘘になるが、気にしないことにしていた。
「これ着替えね。あと何か欲しいものある?」
無いと知っていて投げ掛けた言葉だ。気にしてはいない。
「…じゃあね。私、これから大事な用事があるの。会わなきゃいけない人が居て」
鞄を重く持ち上げて、ベッドの上の夏実に手を振る。
軽く相手と目があって、笑って母親は姿を消した。
帰った菜緒子は、菜束から見て、泣いたように見えた。