君が君を好きになって。
始まった試合を、それはもう碧は真剣に見ていた。
否、見つめていた。
そんな碧を菜束は見ていた。
否、見つめていた。
そんな二人に構わず白羽は真剣に試合を応援していた。
「負けてる、よね?」
菜束のその小さな一言に碧はふと振り向いた。
「ん、負けてるね」
何とも言えない表情で碧は言った。
悔しくもなく、辛くもなく。
かと言って馬鹿にしていたり、嬉しそうにしていたりする訳ではない。
「つまんない試合だね。小玲に見せんの恥ずかしい」
「そんなこと…」
「ある」
碧は一人で断定した。
でも確かに、ルールも知らない菜束でも、自分の学校の動きがなっていないことくらいは判った。
「負けだ」
碧はそう言って、コートにまた目を移した。
菜束は何というか、不思議だった。
少なくとも菜束の知っている碧は、負けを認めはしなさそうだからだ。
たとえ、断定的でも。
「綿貫先輩!?」
マネージャーの声。
碧を見付けて半ば裏返っている。
「…おはよ、絶賛負けてるね」
「どうして先輩は出てくれないんですか?」
後輩ならではの、直球の質問。
そんなこと、菜束だって知りたい。