君が君を好きになって。

「そう言えば、お姉さん。あれからお姉さんと話した?」

「…ううん。お母さんともいまいち話してないし」

「そっ、…かぁ」


碧はまるで我が事のように心配していた。
菜束はそれが嬉しくて、でも悲しくて。

「うん…でも、ごめんなさい」

「?何?」

碧の声は正直に戸惑っている。

「巻き込んじゃって、ごめんなさい…」

菜束は駄目だと思っても、涙を止めることは出来なかった。
碧は暫く何も言わなかったけれど、別にそれが菜束にとって“悲しいこと”にはならなかった。
菜束は言葉を続ける。

「あれからお姉ちゃんは一言も何も話してくれないから、もうどうしたらいいのか分からなくて…」

「うん?」

「綿貫にも、嫌な思いさせちゃったよね、…本当にごめんなさ…」

菜束はもう言葉が続かなくて、息を詰めてしゃがみ込んだ。
見えはしないものの、碧も側にしゃがみ込んだのを菜束は感じた。

「──ごめんなさい、ごめんなさい…」


菜束に言えることはたったの一文だった。
謝罪。

三度目のごめんなさいを言おうと息を吸って前を向いた時。






目の前が、真っ暗になった。


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