君が君を好きになって。
「じゃーねーっ」
「バイバイ」
「うん、また明日ね」
美術部友達は全員方向が違う。
路線が違ったり、または乗車駅が違ったり。
一緒に遊んだことも無く、遊びに行くとしても電車代が掛かる。
中々面倒なのだ。
菜束の家はマンションの五階で、いたって普通のマンションだった。
両親、姉、弟と菜束の、五人家族。
本当に普通なのだ。
菜束が鍵を回して中へ入ると、
弟が廊下でウロウロしている。
「葉太?何してんの?」
「あっ、ちょ姉ちゃん!大変なんだよー…」
「ただいま」
「あ、おかえり……じゃなくて!母さんとお姉ちゃんが…ちょっと来てよ!」
葉太は菜束の腕を掴むとリビングの入り口の窓に連れていった。
二人で覗き込むと。
「茶髪にピアスのお兄さん…誰?」
「お姉ちゃんの彼氏だって。母さん許す訳無いじゃん?」
とは言っても、菜束や葉太とは真逆で、二人の姉、夏実は相当荒れた女子高生で、
本当に兄弟には見えないと良く言われていた。