はつこい。
私のその言葉を聞いて彼女は、「よくぞ聞いてくれた!」といった感じで、にっこり微笑む。
「あきも知ってる人だよ」
「あき」こと私、大西 明菜(おおにし あきな)。
恋愛経験は0だが、決して全くモテないわけではない。
たまに告白されることもあるが、まだ恋愛に興味がない。
そんな私にいつも葉月は恋愛話をしてくる。
「私も知ってる人ー?だれ?クラスの男の子?あ、先生だったりして。」
後半部分はもちろん冗談だ。
この学校には若い先生は若い独身の男性教諭はいない。
一番若い先生でも36歳だ。
しかも、彼女の好みからは圏外だという話を聞いたことがある。
「もうっ!先生なわけないでしょ!!そして、クラスの男子でもありませーん。」
「あー、じゃあ違うクラスか。」
「ぶぅー」
語尾に音符でも付いていそうな感じで彼女は言う。
「じゃあ一体だれ?」
ご機嫌な彼女に対してちょっと不機嫌な私。
そんな私に気づいてか、今度はちゃんと答えてくれた。
「真田くんよ。真田 尚樹(さなだ なおき)。ほら、中学のとき同じクラスだった。」
「真田くん?中学のとき葉月ずーっと真田くんに片想いしてたよね。でも、真田君とは学校違うじゃない。メールでもしてたの?」
真田 尚樹とは、中学1年の時同じクラスで、その時も同じクラスだった葉月が好きだった人で、唯一ちゃんとした人だった。
今では、自分から告白もする彼女だが、その頃は普段は普通に話せてもいざ告白となると全然出来なかった。
その結果、彼女は中学3年間彼に片想いだった。
「メールはしてなかったよ。卒業式のとき聞こうと思ってたけど、恥かしくて聞けなかったー。」
意外な人物の名前が出てきて驚いたが、懐かしいことも思い出し、つい口元が緩む。
中学3年の3学期、卒業式には絶対アドレス交換をする!と意気込んでいて、普段なら恥かしがらない葉月が恥かしがって結局失敗に終わった。
「そうだったね。メールもしてなかったならどうやって?」