奈落の王女に仕えしは執事

馬車から降りると、
一緒に降り立った男性が私の前に立った。

「ほぉ、嬢ちゃんがアリア姫かい」

それは突然の言葉だった。
いきなりその人から手を差し出されたから、逃げようとしたらレインに捕まる。

「よろしくな、嬢ちゃん」

「………え?」

…この人、スパイじゃない?
右手とは反対の左手で、この人は顎髭を撫でた。

赤い帽子がトレードマークの男の人は、意外にも優しい。

「…よろしく、お願いします」

「かーっ!ダメダメ!嬢ちゃんはまだ若いんだから、堅苦しくしちゃ駄目なの!」

「…はぁ……レイン」

レインに救援を求めたら、
いつの間にか私の前にはいなくて、馬車の馬を撫でていた。

「はは、まぁいいさ。俺はバルツ、コイツの馴染みだ」

そう言って、レインを指差した。

「コイツとはちょっとした呑み友だ、ふぐぅっ!!?」

「大丈夫です、姫。この方はちょっとした知人でして…」

「…はぁ」

何かこの二人が意外と仲が良くて、少し笑えた。

「ふ、ふふっ」

「お、嬢ちゃん笑えるんだねぇ!可愛い、ぐほぉっ!?」

「姫を汚い手で触るなよ」

そのレインの言葉は、
私には聞こえていなかった。

「?」

ただ、疑問になっただけ。

 
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