へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「あ、あああなたはクイールの人ですか!?だったら、良かった!助けて下さい!今、ヴァンパイア共に追われていたんです!!」
ズピズピと鼻提灯を膨らませながら、汚い唾を飛ばして迫ってくるソイツに、あたしは焦りながら答えた。
「分かった分かった!分かったから、さっさとソコをどけ!!」
その言葉に、少しは安心したのであろうか…男が一度ピタリと動きを止めた後、ノソノソと緩慢な動作であたしの上から退いた。
……気がしていたのだが…
「オイ、何してる」
以前、あたしの膝小僧に腰を落としたままで、ジィーッと顔を見つめてくるソイツの奇行にキツく眉をしかめる。
コイツ…一体、何なんだ……?
しかも、ソイツは思った以上に背が高かったらしく……あたしを見下ろし巨大な影を落としてくる様に、ヤケに威圧感を感じた。
「美味そう…」
凝視してくるその瞳が、やはりハッキリした色彩を捉えられない不可思議な色合いで…思わず、危機感を忘れて見入っていた。
だから、ソイツの紅い唇が自分の顔の横にそっと近付けられたのにも、気付くのが少しばかり遅すぎたかもしれない。