へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
滑り落ちていた遠心力で、手すりから投げ出されるようにして階段に着地したあたしは…無理に体重をかけ過ぎたせいで、パックリ折れてしまったブーツのヒールを見て、小さく"ゲッ"と呟いた。
「しまった、またウェルシーに怒鳴られる…」
今月に入って通算3足目ともなると、流石にすぐには支給してもらえないかもしれない。
…だが、それも致し方ないと思い直す。
どっちみち、ここに滑り落ちてくるまでにすっかり塗装が剥げ落ちた手すりの件で、キルバッシュに無言の圧力をかけられるのは、分かりきっている事実だ。
そして、そんなどうでもいい事をツラツラと考えていたあたしは、静まり始めた呼吸の乱れと共に、また駆け出す。
さっきよりも安定感が悪くなったそのブーツは、少なからず走る速度を遅らせるが……その分、あたしの心を急かした。
『姉さん』
何故だか、妙にあの気抜けた声が思い出され、この嫌な予感が取り越し苦労であって欲しいとまで願ってしまう。
そして、すっかり目的の最下層まで駆け降りた頃には……乱れた神経から発する嫌な汗が全身を流れ、あまり"不測の事態"に最適な状態とは言えなかった。