へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「……」
その上、予想以上と言っていい程に人の気配一つせず、静まり返ったフロアの雰囲気に、自然と息が詰まる。
最下層にある地下6階は、実験や研究の為に連れ帰って来たヴァンパイアを主に監禁して置く場所
…そんな曰く付きのフロアが、これ程までに警備の姿一つなく静まり返っているのは、逆に大問題である証拠だ。
「誰もいないのに、血の残り香…か」
独り言のようにそう呟いてみると、誰もいない真っ白な空間は、それを何倍もの大きさにして返してくる。
床も壁も天井も真っ白で、一滴の血痕の跡さえないそこは、明らかに人工的な美しさの元に成り立っていた。
陽の光が届かない地下に建てられている為、光源は専ら天井にクモの巣のように吊るされている黒いシャンデリアなのだが…
物の見事にその蝋燭の火種が消されている所を見ると、何者かが故意にやったとしか思えない。
もちろん、あたしはそれに怯えたりなんかしていなかった。
……どころか、キルバッシュもウェルシーも自分を見咎める人物が誰一人いない中で、自由気ままに振る舞える事に奮起さえしていた。