へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
そんなちょっとした葛藤を抱いたまま、次に蹴り開けた扉も、案の定キレイに円を描いて吹っ飛んだ。
「……」
だが、壊れたものは仕方ない。なんなら、後でヴァンパイアのせいだと言う事にでもして、キルバッシュに伝えようと思う。
そして、それに続いて同じような状態が二度三度と続き、気付いた時にはそのフロアにある扉のほとんどが破壊されて……破壊した。
準じて、部屋の中も同じように無人の状態であるのを確認する。
一番、警備が重要でなければならない場所がもぬけの空であるこの事実……やはり、どう考えてもおかしかった。
試しにもう一度、上の階の気配も確認してみるが、やはり変わらない。
「……」
そうして残された可能性が一つしか至らない事に覚悟を決め、あたしは静かにその大扉を振り向いた。
数時間前にキルバッシュ達と来たばかりのそこは、その時と何ら変わらぬ佇まいであたしを堂々と待ち構えている。
扉に彫り込まれた仰々しいクロスが、この時ばかりは血にまみれた罪深いブラッディクロスに見えた。