へたれンパイア~バイオレンスな生贄~


「……」

暫くの間、あたしは何も言わずただ彼の事を静かに、見下ろしていた。


けれども、彼は決して裏表の"裏"の部分を見せる事もなく、それどころか至って"ありのまま"の様子でそこにいる。

…それはもしかしたら、ヘタな人間よりも"善"なるものであるのかもしれなかった。



「姉さん、どうしたの…?」

ハッキリした色彩のない曖昧な瞳が、あたしの中にある畏れと熱を呼び覚ます。


カチッ、と引いたトリガーは、面白いくらいに空回りして何の衝撃も起こさなかった。

その代わり、それを最奥まで引いた指の関節に引き金の角が食い込み、銃の繋ぎ目が一度ミシリと軋む。



「……て…分からなかった…」

そんなつもりは無かったのに、吐き出した言葉は自分自身でも聞こえないくらいに、低く押し殺されていた。



「…え…?」


「……何故、気付かなかった…ッ」

誰に対しての怒りなのか、やるせなさなのか、分からない。


ただ、室内に反響して返って来た声が、自分のものとは思えない情けない泣きそうな声だった事に、幻滅した。


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