へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「……っ」
その声に全身をビクリと震わせたのは、それがあまりにも予想外の方角から聞こえて来たためだった。
「もったいなーい」
どう考えても、今の一瞬で移動出来るハズがないのに…いつの間にか、あたしの遥か後方にいたメフィストは、大口を開け天井から滴り落ちてくる血を受け止めている。
一定のリズムで口内に吸い込まれていくそれに、心なしか奴自身も恍惚な表情をしていた。
その落ちる滴にならい、ゆっくりと顔を上げていくと…他の者よりもわずかに血色のいい死体が、咬まれた傷跡から真っ赤な鮮血を垂らし続けているのが見てとれた。
その姿に、どんなに"それらしく"なくても、やはりメフィストはヴァンパイアなのだと実感する。
だからこそ、心の中にあった猜疑心(さいぎしん)が徐々に薄れていき、奴の言っている事を少し信じようという気になった。
「…ヴァンパイアブラッドが、お前だけじゃないと言うのは本当なのか?」
唐突な質問に、メフィストは一瞬だけ不思議そうに視線を寄越し、血で真っ赤に染まりあがった唇をつり上げると、微笑みながら答える。