へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
それは始め、自分とあたしの顔の近さに驚いているのかと思ったが、違うらしく…
どちらかと言うと、その唇さえも触れ合いそうな距離に、あたしの方が吃驚して顔を背ける。
ほとんどのゼロ距離で見るからこそ分かる、金緑色の睫毛の奥に隠された色素の薄い曖昧な瞳が、より不気味だった。
「……っ!?」
ところが、逃げるように顔を背けた瞬間、あたしの体はまるで強力な麻酔薬でも射たれたかのように、膝から崩れ落ち立っている事が困難になる。
同時に、ついさっき味わったばかりの感覚が襲って来て、クラリと目眩がした。
「姉さん…っ」
今度こそ、へなりと座り込むその腰を支え、しっかりと体をサポートしてくれるメフィスト
ダンッと少し痛いくらいに床に膝をつき、倒れ込むようにして自分の胸元にもたれ掛かってくるあたしの背中を、優しい手つきでソッと擦った。
「…お……ま、え…っ…」
意外と逞しく温かい腕の中に抱かれ、ドクンドクンと定期的にリズム良く鳴る鼓動の音を聞くハメになりながら、必死に声を絞り出す。
「ごめん、やっぱり我慢出来なかった」
一度、腰を抱く腕にギュッと力が入ったかと思うと、そのまま難なく床の上に押し倒された。