へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
サラッと自分の長い黒髪が床の上に広がるのが見えたが、その体は自身で指一本動かす事が出来ない。
冷たかったハズの床の感触さえ、もう感じる余裕は無かった。
「始めから気付いてたよ…姉さんが、ゴートだって」
目蓋さえも開けるのが困難な中で、メフィストのデカイ図体がのしかかってくるのを感じる。
だが、焦る心とは裏腹に、体に感じる殺気のプレッシャーは先程よりも何十倍も重く辛く、今度こそ体のどこにも力が入らなかった。
「俺も生まれて初めて、ゴートの血を目の前にしたけど…本当だ、とてもじゃないけど我慢出来ないや」
指先にメフィストの細く長い指が絡まってくるのを感じ、"ああ、あの時か"と気付く。
ついさっき、奴に手を握られ爪を食い込ませられた時…あの時に、皮膚が裂けて染み出た血の匂いで確信したのだ、と。
だがそれが、ただの天然なのか計算ずくの事なのか…最早、確かめる術も、あたしには残されていなかった。