へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
少し曇った窓ガラスに映る自分の顔が、何故だか本当の自分では無いような気がして、その先に見える白い風景に総てを呑まれそうになる。
虚無なのだ。始めから、何もかも──…
その時、カチャリと音がした背後に、あたしはゆっくりと振り返った。
焦る必要など無い。
もうその人物は、誰なのか分かっているのだから。
「……メフィスト…」
「…やっぱり、そろそろ起きる頃だと思ってた」
黒ずんだ木製の扉の向こう側から姿を現した彼は、いつもと変わらぬ、緩やかな微笑みを浮かべていた。
その手には、白い湯気が立ち上る一皿のスープ
だが、それからどんなに香ばしい匂いが漂っていようと、あたしは一口足りとも、口にする気にはなれなかった。
「…いらん」
だから、小さくそう言って顔を背けてやれば、メフィストが遠慮がちに声をかけてくる。
「…大丈夫、毒なんて入っていないよ」
あたしとの距離を計るように、慎重に歩を進めてくるメフィストに、苛立ちが増した。
世界は何が正しくて、何が間違っているのか
その答えを導き出す術を、今あたしは何も持っていない。