へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「ああ…お姉様…」
ところが、不意にひやりとした感触が頬を包み、物凄い力でグリンと顔を振り向かせられた事に、少しだけ首の関節が悲鳴を上げる。
「わたくしが、ずっと追い求めていた…最愛のお姉様……」
あたしが何か疑問の言葉を上げる前に、少女はどこか恍惚とした表情で、顔の輪郭をなぞってきた。
額から眉、鼻筋を通って唇のラインを辿る細い指先が、何だか思わせ振りで少しだけ背筋に悪寒がはしる。
それは、まるで大好物のエサを前にした猛獣のような動作で…
「わわわ…!マティー、ストップ!!」
噛み付いてきそうになったその顔面を、痛みから回復したメフィストが咄嗟に手のひらで押さえつける事で、最悪の事態は免れられたのだが……
床に背をつけ、それ以上少女が近付いて来ないように足で肩を押し返しているあたしは、珍しくドキドキと高鳴る心臓を押さえていた。
じ、冗談じゃない…!
こんな凶悪な兄妹の前では、あたしは肉食獣の前の、ただの肉の塊に過ぎないんじゃないか!?