へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「……兄。どうして、邪魔をなさるの?」
おっとりとして上品な声を出しながらも、少女は二人がかりで押さえ付けるあたし達の力を物ともせず、徐々に体の距離を狭めてくる。
「どうして、って…‥俺がこの手を離したら、マティーはすぐに姉さんに噛みついちゃうでしょ!?」
「オイ、メフィスト!!このバカ力は、一体何なんだ!?」
どんなに足に力を入れても、全く押し返せる様子のない少女の体に、あたしは怒鳴った。
「ええ!?何なんだ、って言われても…‥取り敢えず、元からすごく力が強い子で…」
「兄!今すぐこの手を退けて下さい!でないと、わたくし…っ、もう我慢出来ませんの──…ッ!!」
そう言うや否や、非の打ち所がないくらい長くてキレイな指を五本とも揃え、赤黒く尖った爪先を真っ逆さまに振り下ろしてくるのに、目を剥く。
「な…ッ!?」
咄嗟に回避させた顔の横にそれが深く突き刺さり、指先どころか手首までもが床板にすっぽりハマっている光景に、うすら寒さを覚えた。
な、何て無茶苦茶な奴なんだ…!