へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「マ、マティー、落ち着…っ」
それを一応兄として、必死になだめようとしているのか
マティーと呼ばれる少女の顔面を掴むメフィストの手には、幾筋もの青い血管が浮かび上がり、鷲掴みにした指の先が痛々しいくらいに、白い肌にめり込んでいた。
あまりにも容赦と言う言葉を知らない、人智を越えた力でぶつかり合う兄妹に、流石のあたしも少しやり過ぎだろうと思いながらも……すぐに、それがただの年越し苦労だったのに気付かされる。
「…ずるい…ずるいですわ……兄だけ、こんな美しくて強そうな人を独り占めにしてるなんて…」
まるで、どこぞの三流逸話の悲劇のヒロインみたいな仰々しい台詞を喋り、フルフルと体を震わせる少女に嫌な予感が募った。
何だろう、一体何なのだろう……
この少女は、ある意味ですごく“分かりやすい”
「姉さん、避けて!!」
「何…!?」
すると、突然にそう情けない声で、すがるように叫んだメフィストの声が聞こえたと思った瞬間
先程よりも、高速の激しい手刀の波が押し寄せてきて、あたしは抗議の声も上げられないままに、首を左右に振り続けそれをかわす事となる。
次々と顔の横の床板が破壊されて行き、砕け散った木片がたくさん頬を掠めるのに、生きながら地獄の入り口をかいま見さえした気がした。