へたれンパイア~バイオレンスな生贄~


少女の鋭く尖った牙先が、大きく仰け反ったあたしの首筋に触れた。



「……違う」

当然の事、無機質なそれが突き刺さるのは、あまりいい気分ではない。


けれど、そこであたしが抵抗しないのにも、確固たる理由があった。

…否、理由と言うよりも確信と言うべきか。



「…‥違う、わ…」

動脈に突き立てていた牙をゆっくりと離し、少女は信じられないと言った声音で呟く。


それに答えるように、あたしは瞑っていた目蓋をソッと開け、近距離で少女と見つめ合った。

その瞳が、困惑気に揺れている。



「分かっただろう」

何故、と問われる前に、あたしは自分からそう遮る。


初めから、こうなる事など分かっていた。だから、メフィストだって止めに入らなかった。


そして、あたしをココに連れて来た──…




「…あなた…違う、匂いがする……」

幻滅と困惑の入り交じった表情でそう言われ、あたしは図星に瞳を逸らす。



やはり、少女はどうもかなり"鼻が効く"らしい

メフィストが血を吸ってから気付いたものを、この少女はその前に気付いたのだ。


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