へたれンパイア~バイオレンスな生贄~


そして、親しい者をなくした喪失感──…

それを呼び覚ますのに、今この場は相応しくないような気がした。



「だから、姉さんはちゃんと食べなきゃダメ!!はい、交代!」

そう言って、目の前にズイと差し出されたクワに、あたしは目を見開く。



「どう言う意味だ」


「俺、疲れちゃったの!だから、次は姉さんがやって!!」

さも偉そうにふんぞり返って堂々と宣言するメフィストに、あたしはすぐさまクワの取っ手を握り、その刃先を奴の股間に向かって振り上げた。


「ピギャア」と、潰れた蛙のような鳴き声を出して、股間を押さえ踞ったのを見て、フンッと鼻を鳴らす。



いくらヴァンパイアとは言え、関節や急所の位置は、大体にして人間の構造とそう大差はない

だからこそ、こうして一瞬の隙をついて怯ませる事も、難しい事ではないのだ。




「いつまで、ネコ被ってるんだ?」

切り株の上にドカリと腰を下ろし、視線だけで冷やかに見下ろすあたしに、メフィストは涙目でふるふると首を振ってくる。


これ見よがしに苛立ちに組んだ足を揺すってみさえすれば、面白いほどに素直な反応も示してくれた。


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