へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
音が聞こえない、生き物の気配がしない、何の匂いもしない。
…本当に、自分がただ一人、この世に残された"生き残り"の気がした。
「……飲みたいな」
そして、唯一耳に届くのが、そんな奴の心の呟きだなんてのも情けないと思う。
「血を…飲みたいな」
「……」
どんなに夜は人間になる体質だったとしても、所詮メフィストはヴァンパイア
その本能に宿る血への飢餓は、一生消えないんだ。
それは、半分は人間になってしまう者の哀しい宿命なのか
それとも、ヴァンパイアとして正当な喜ばしい宿命なのか
……どちらがいいかを決めるのは、メフィストだ。
「何、見てる」
…が、土の上で寝っ転がったまま、ジトリと物欲しそうな視線を向けてくるのに対し、あたしは低く問う。
「ううん、別に」
咎めるような言葉にバツが悪そうに瞳を逸らすと、メフィストは誤魔化すように、わざとらしく口笛まで吹き始めた。
その間もグーグーと、まるで腹の中に暴れまわる化け物でも飼っているように、鳴り止まぬ音に、呆れて溜め息を吐いてしまう。
きっと、畑仕事を突然放棄し出したのも、あまりの空腹ぶりに耐えられなくなってしまったからだと、思われた。