へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「それに…っ…!」
急に反動をつけたと思ったら、そのまま体をジャンピングして起こし、あたしが座る切り株に両手を付いて、近距離から真剣な眼差しで見つめてきたメフィストに驚いた。
「姉さんだって、探してるブラッドがいるんでしょ?」
珍しく探るような視線で問いかけてくるのに、妙な笑いが込み上げて来る。
…コイツの真顔に、慣れていないせいかもしれなかった。
「ああ…じゃあ、交渉成立か」
メフィストのあまりの率直さに根負けするように、不適な笑いを浮かべたまま、そう返答したあたしに、奴も満面の笑みで返してくる。
利害の一致──これ程までに、都合のいい無条件の条約はなかった。
「良かった!これで、もう少しの間は姉さんといられる!!」
メリットやデメリットの話よりも、単純にその事に盛大な喜びを表すメフィストは、鋭く尖った牙をニカッと下唇に食い込ませて言う。
その隠しようのない素直な喜怒哀楽ぶりに、思わず苦笑にも似た笑いがこぼれた。
案外、コイツといると楽かもしれない。
「ほら、分かったならサッサと働け」
そして、照れ隠し半分、本気でこれからの食料の心配を半分…で、奴の背中を蹴り上げ、また畑に向かわせた。
これからは、あたしが一緒に生活する分、たんまりと精を出して働いてもらわないと困る。
…家事なんて、した事ないのは当然だしな。