へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「夜が訪れるのですわ」
「……!!」
すると、そんな予期せぬタイミングで割り入って来た声に驚愕し、あたしは思わず飛び出そうになった声を、必死に喉の奥に押し込んで堪える。
ドキドキと高鳴る心臓を押さえ、動揺を押し隠すように少し上擦って言い放った。
「な、何で外に出てる!?」
家の敷居から一歩も外に出なかったハズの二人が今、目の前にいる事に驚きを隠せない。
頭の天辺から足の爪先まで漆黒に染まったコートを羽織り、目深く被ったフードの奥からは、マティリアの金緑色の瞳とアッシュの薄紫色の瞳が、妖しげに光っていた。
「さぁ、ブロ…‥アッシュ。兄を早く、お運びになって」
あたしが大男の事を"アッシュ"と呼ぶのを耳にしてから、何故か自分までそう呼び始めたマティリアは、背後に控えている彼に向かって指図する。
「ん」
それに小さな声で返事をすると、アッシュは地面に倒れているメフィストの体を軽々と肩に抱え上げ、家の方角に歩いて行った。
彼の背中でブラブラと揺れる力無い腕と、安らかに閉じられた目蓋に、妙な既視感を覚える。
寝ている時が、一番"まとも"とは…何とも皮肉な話だった。