へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「ヴァンパイアブラッドの純血って事か?」
回転の余韻を持て余し流れる髪先を目線で追いながら、次の敵が襲いかかってくる間に聞いたあたしに、マティリアは焦る様子もなく悠然として答えた。
「ええ、正統なね」
物の見事に、あたし達を取り囲んだ円の周囲が一瞬モヤがかって、白い灰に包まれるのに、雪が降っているような錯覚にも陥る。
「どう言う事だ。ここにいるヴァンパイアブラッド達と、何が違う」
あたしは元来、ヴァンパイアブラッドは吸血界にいるただ一人の「王」の事だと、思っていた。
実際、クイール内部に置かれている文献にもそう書かれているし、あたしがゴートの一族から伝え聞いた話もそれに相違はない。
"ヴァンパイアブラッドは、一人じゃない"
だが、あの時アイツが言った事を要約すると、その知識は完全に間違っていた事になるのだ。
人間が簡単に足を踏み入る事の許されない、ヴァンパイアの世界
だからこそ、あたしは少しばかり真実が違っていたとしても、驚きこそすれ、特にそれに大きな疑問を抱く事はなかった。