へたれンパイア~バイオレンスな生贄~


「マだ、タベちゃダメだヨ」


「ダッテ、おナかがスイたンダもん」



「…ッ、何してる!?」


"タベル"だの"おなかがすいてる"だの…さっきから、あまり宜しくない言葉が並ぶのに焦燥を感じながら、あたしは叫ぶ。



「…アれ?イイにおイ」


「…オいしソウ」

だが、ハタと何かに気付いたように動きを止め、クンクンと鼻の穴を広げて見せる奴等に、ハッとした。


右足首には、空腹に負けてかぶりついたヴァンパイアによって開けられた小さな風穴


そして、コメカミには、打ち付けられた衝撃により出来た打撲傷と擦り傷…そのどれもに"しまった"と言う思いが込み上げて来た時には、時すでに遅し。



「…チ…」

「あマいニオイ…」

「…ノみタい」


「ま、待て…ッ!!」

ゴートの血が発する芳醇な香りに誘われて、フラフラと近寄ってくるヴァンパイア達に焦った。


何より、一番最初にあたしを"タベタイ"と言ったソイツが、背中に馬乗りになった回避不可能な体勢から、大口を開けて牙を突き立てて来ようとするのには、尚更激しく抵抗する。


目の前に迫り来る牙の白さに魅入られたのと、ソイツの首が一瞬にして灰になって消し飛んだのは、まさに同時の出来事だった。


< 212 / 225 >

この作品をシェア

pagetop