へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「……侵入して来たヴァンパイアは、全部で何体か言ってたか?」
「さぁ、知ってるのはイヤホンで連絡を受けたキルバッシュだけだから」
「…そうか、じゃあ決まりだ」
早吹かしが得意なウェルシーは、たった十数秒でフィルター付近まで吸い上げた煙草を床に落とし、ブーツの底で踏み消した。
「最低でも、一体は倒さなきゃいけないって事だ」
ジリ、と消えた火種から立ち上る白紫の煙を挟んで、あたしの黒曜石の瞳とウェルシーのグレイの瞳が交差する。
「YHAAAA!!ヤバイ!いい、いい匂いがするぞ!めちゃくちゃ、美味そうだ!!」
聞いてるだけで、耳が痛くなってきそうなしわがれ声と共に、また強い衝撃がエレベーターを襲ったが…いくらかそれを予期していたあたし達は、とくにビクともしなかった。
ただ、“ダンッ”とヘコんだ天井の残骸部分の“二つのヘコみ”を見て、小さく視線を合わせる。
「最低、2匹だったみたいね」
「いや、3匹かもな。まだ上でドンパチやってる」
「いないいなーい…ばぁ!!美ー味しいのは、どっちかなー?」
節外れのリズムに乗せて、天井から顔だけをヒョイと覗かせたソイツは、紛れもなくヴァンパイアの顔立ちだった。