へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「落ちたら…絶対、死ぬ!!」
「イチイチ、言わなくても分かってる!!」
必要のない喚きを繰り返すウェルシーに、痺れを切らし怒鳴ったせいで、バランスを崩し後方に体重が片寄る。
すると、物の見事にシーソーのように傾いたエレベーターが、あたしを端に滑らせ何もない空間へと投げ出した。
「フィア!!」
落ち行く視界に赤い長髪が映ったと思った瞬間、骨太の手がガシリと腕を掴み、あたしの落下を防ぐ。
伸ばした右腕に自分の全体重がかかり、少しミシリと鳴った肩の痛みに眉を寄せた。
プラーン、プラーン、と振り子時計の振り子の如く揺れるあたし達二人の繋がりは、二人分の体重を左腕一本で支えるウェルシーの忍耐力に全てかかっていた。
だが、その願いも空しく…早い内から、ウェルシーの支えの手がズリッと冷や汗で、滑り落ちる予感を示し始める。
「ウェルシー、早くこの手を引き上げろ!でないと、あたしまでお前と一緒に落ちてしまうだろうが!!」
「バカ野郎!そう言う時は、“早くこの手を離して”だろう…!?何でこんな時に、そんな自己中な言葉が飛び出してくるのか理解不能だ!!」
そう叫びながらも、もうウェルシーには、二人分の体重を支える力さえも無くなり始めている事に気付いていた。