へたれンパイア~バイオレンスな生贄~
「怪我はない?」
未だ、死の淵から生還した事が信じられず、呆然とするあたし達にキルバッシュの爽やかな声が降り注いでくる。
それはまるで、干からびた大地に降り注ぐ恵みの雨のような清らかさだった。
「あ…ああ」
「…それが、新しいブーツか?」
素直に返答するウェルシーとは別に、あたしはキルバッシュの足元が気になり、すぐに視線を落とした。
コンクリートの壁に、グッサリと刺さっているブーツから突き出した刃物
それが支柱となり、どうやらキルバッシュの空中移動を可能にさせているようだった。
「そうだよ、"D.C"から手渡された実験品」
そう言って、ガコッと壁から片足だけ取り外して見せたそれは、それこそヴァンパイアの爪みたいな長く鋭利な刃物が、カカトにくっついているブーツだった。
その長い刃が鉤爪の役割を果たし、壁を上下にスライディングして移動する事が出来る
…反対に、何らかの対象物がなければ、空中戦に及ぶ事は叶わない代物でもあった。