恋の相手は俺様王子!?

「早く来ねぇと置いてくぞ。 ……由梨」


「あ〜はいはい! ……って、え?」


肩から落ち掛けていたショルダーバックを掛け直し、一瞬固まる。


何故って、初めて彼があたしの名前を呼んだから。


お前しか呼ばなかったのに。

そして、出会った時を思い出した。



『俺は、特別な奴しか名前で呼ばねぇから』



そう断言していた彼が、照れ臭そうに、あたしの名前を呼んでくれた。


次第に怒りは消え去り、喜びが舞い込む。


パタパタパタと駆け寄り、もう一度呼んでとせがむあたしに、彼は頬をかきながら


「……うっせぇぞ。 由梨」

もう一度、名前を呼んでくれた。


ありきたりな平凡な名前に、今まで何も感じなかったけど、この時ばかりは、良い名前をもらったと両親に感謝した。



「えへへっ! なんか、照れるなぁ〜」

「お前も呼べよ。 あんたじゃなくて」

「あー、またお前って言った!?」

「呼び慣れねぇんだよ。 一々騒ぐな、バカ」


うーっ。 バカ呼ばわりに変わって、ちょっとへこむ。


だけど、それ以上に、やっぱり嬉しくて。


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