短編集

大丈夫

あいつが死んでから、君は心を失ってしまったかのように、ぼーっとしている。

そんな君の姿を見るのが辛くて、でも君をちらりとでも見ることができれば、それ以上の幸せはなくて──つまり、矛盾。

どんなに好きでも、あいつには適わない。

両想いに、適うわけがない。

だから見てるだけでいいんだ。

一日に一瞬でも君を見ることができれば、俺はもうそれだけでよかったんだ。


なのに、君が言うから。

君が、まだ好きって、言うから。


「……あいつも、見てるんじゃない?」

好きな人にそんなこと言われたら、励ますしかないじゃないか。

本当なら、こんなこと言いたくないのに。

苦しくて苦しくて、自分の心臓に杭を打ち込んでいるみたいに苦しくて。

「──大丈夫、あいつも君が好きだよ」

それでも俺は君に言うんだ。

君が少しでも安心してくれるように、大丈夫って、君に言うんだ。




★君に大丈夫と告げる
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