短編集
夏の嘘
携帯が鳴った。個別着信音を設定しているのは1人だけだから、名前も見ずに出る。鼓膜を震わせたのは確かに彼の声だった。
『…オレ』
「どうしたの?」
『今どこ』
「今?コンビニ」
『…待ってっから』
「わかったー」
他愛もない会話をして電源ボタンを押す。去年の夏に撮った、彼と私が一緒に笑っている写真が表示された。が、すぐに閉じる。
いつからか私は笑えなくなった。彼といるときだけは笑えていたのに、それもない。笑おうと思えば引きつった笑みを浮かべることなんて簡単、でも彼はそれをひどく嫌がった。
『自然な笑顔じゃねーんなら笑うなよ』
それはきっと彼の精一杯の愛情だった。不器用な彼なりに頑張って絞りだした言葉。嬉しかった。だから無理には笑わない。
『…オレ』
「どうしたの?」
『今どこ』
「今?コンビニ」
『…待ってっから』
「わかったー」
他愛もない会話をして電源ボタンを押す。去年の夏に撮った、彼と私が一緒に笑っている写真が表示された。が、すぐに閉じる。
いつからか私は笑えなくなった。彼といるときだけは笑えていたのに、それもない。笑おうと思えば引きつった笑みを浮かべることなんて簡単、でも彼はそれをひどく嫌がった。
『自然な笑顔じゃねーんなら笑うなよ』
それはきっと彼の精一杯の愛情だった。不器用な彼なりに頑張って絞りだした言葉。嬉しかった。だから無理には笑わない。