短編集
特に買いたい物があったわけではなく、ぶらぶらと歩いていたらコンビニに来ていただけなので、携帯を握ったまま外に出る。
でも、外に出たときスーツを着た男性がタバコを吸っていて、私もなんとなく吸いたくなった。回れ右して、そのままレジに進んだ。

彼はタバコが嫌いで、私も消えてなくなる物にお金を払いたくはない。しかし、ついレジまで来てしまった。店員が爽やかな笑顔のまま「いらっしゃいませ」と言う。

「えっと、ピザまん1つ」

別になんでもよかった。レジ前にある物ならなんでも。結局選んだのは消耗品。なんか、ばかみたいじゃん。別に気にしないけど。

爽やかな笑顔のまま店員は私の注文通りに、ピザまんを1つ取るはず――だった。むしろ、店員なんだからそうしなければならない。なのに、彼が取ったのはあんまんだった。

「疲れてるときは甘い物がいいですよ」

「はあ、そうですか」

意味がわからない。財布の小銭入れを覗くと百円玉が1つと五円玉が1つ。小銭が増えると重くなるので、お札は使いたくない。
そうなるとどっちみちピザまんは買えなかったことになる。ピザまんより15円安いあんまんを受け取り、自動ドアに向かった。

「ありがとうございましたー」

全くもって心のこもっていない店員の言葉を背中に、夏の暑い日差しの中、買ったばかりの暖かいあんまんを一口食べ、飲み込む。アイスにすればよかったという後悔と一緒に。
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