短編集
コンビニを出て15分、自宅の玄関を開け、クーラーが効いてるだろう居間に向かう。確か点けっぱなしで行ったはずだ。地球温暖化のことなんて頭の中からすぐになくなってしまう。決してわざとではなく。

居間に置いてある結構な値段のしたソファーにはすでに先客がいて、彼は不機嫌そうな顔で振り向いた。膝ではたくあんが寝ている。漬物ではなく、私の飼っている猫の名前だ。

「おかえり」

「ただいま」

自然な流れで私は彼の隣に座る。そして、これまた自然な流れで彼は私にキスをする。いつものことなので、たくあんは彼の膝から降りて自分の寝床へ向かった。

「…なんか、甘ぇ」

「あんまん食べたから」

「…ふーん?」

だから甘ぇのか、と彼は私の首筋に顔を埋めながら呟く。くぐもった声が聞こえた。と同時にチクッとした小さな刺激と、ザラッとした感触を首の辺りで感じた。

彼はこういう風に猫になる。私の全てを知るかのように、私の全てをリセットするかのように。そんな彼が、嫌いじゃない。
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