短編集
「………?」

「あの子」はあぶらあげを持って紅葉山を登っていく。「あの子」の家は豆腐屋さんで、私も何度か行ったことがあったけれど、最近ではあまり顔を出すこともなかった。

「あの子」がいないのなら行ってもしょうがない、という気持ちが強かった。

…ピクニックにでも行くつもりだろうか。
あぶらあげだけを持って?1人で?
信じられないけど、「あの子」はあぶらあげを持って1人で紅葉山を登って行ったのだ。じゃあ何のために、どうして……

『あぶらあげにあぶらあげをお供えしているのよ』


…あの言葉は本当だったとでも言うのだろうか。だとしたら、その「あぶらあげ」が「あの子」を奪ったということになる。
聞いたことのない名前だから、きっと「あぶらあげ」というのはあだ名なのだろう。
「あの子」はなにも悪くなかった。
ただ「あぶらあげ」という子に会いに行かなければいけなかっただけ。

きっとその「あぶらあげ」という子には友達がいないから、仕方なく「あの子」が来てあげてる。

だったら私が心配することはなにもない。
「あの子」は私を嫌いになったわけでも、私から離れていきたいわけでもないのだから。

明日会ったら、また遊びに誘ってみよう。

「あぶらあげ」と会った後でも十分遊べるはずだし、私は「あの子」の友達なんだから、「あぶらあげ」の友達にもなれるだろう。

そうしたら3人で遊べばいい。
――そう、それがいい。

ああ、安心したらお腹が空いてきた。帰りに「あの子」の家で何か買えるかなあ。待っていたら「あの子」とも話せるかもしれない。
美術の絵、何を描くか相談してみるのもいいかもしれない。

一度、紅葉山を振り返る。

あの子の姿は見えないけれど、なんだか少し嬉しい気持ちになれる。

そのまま歩く私の背中に、遠くから鳴き声が聞こえた気がした。



★夏祭り
Rさんが企画された「紅葉山祭り」に、素人ながら参加させていただきました。あたしの小説に祭り要素はないのですが、タイトルは便乗しちゃった感じで「夏祭り」です笑
お誕生日おめでとうございます!
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