短編集
ゆめのつづき
「もしもし?お母さんだけど」

電話の相手は母だった。
しばらく聞いていなかった声に目を閉じた僕だったが、鼓膜を震わせた信じがたい事実に、その目を見開いた。

──なっちゃんがね、……

母の言う「なっちゃん」というのは、母の親友である人の娘で。
家も斜め向かいというご近所さんで。
そして昨日、小中高と同じ学校だった幼なじみの「なっちゃん」が死んだ。

誕生日は僕のほうが早いはずだから、多分、まだ二十歳にはなっていない。
周りの大人たちから好かれていたなっちゃんは、僕の父からもいつか一緒に飲みたいね、と言われていた。
笑顔で頷いていたくせに、なっちゃんが二十歳になる日は来ない。

「ちょっと、聞いてるの?」

少し擦れた声で言う母に、「ああ、うん」と返すと、いきなり泣き出してしまった。
おかしなことを言ってしまったのかと思い、断片的な母の言葉を拾い上げる。

なっちゃん、昔からずっと、あんたが、片想い、明後日はお葬式、いつ帰って、……

それだけ聞いて母がなにを言いたいのか、すぐに理解した。

なっちゃんが僕のことを好きだった、と。
それを僕は知っているのか、と。
明後日のお葬式には来れるのか、と。

だから僕は、知っていたし、行ける、とだけ答えた。

「…今は家にいるの?」

「いるけど、手が離せないから、切るよ。また後で連絡する」

母はまだ言いたいことがあるみたいだったけれど、聞きたいことはもうない。
久しぶりの母との電話がなっちゃんの不幸を伝えるものだったと思うと気分が悪い。
それもこれも、今日見た夢のせいだ。

──なっちゃんを殺す夢を見た。

妙にリアルで、今も僕の手にはなっちゃんの首を締めた感覚が残っているようだった。
虫の知らせか、予知夢か。
全く興味は湧かなかったが、時間が変にリンクしていて不愉快なのは否めない。

「なっちゃん」が死んだ。
自分で死を選んだのか、選ぶ余地もなく殺されたのだろうか。
僕がなっちゃんのことを殺したのはただの偶然だったのだろうか。

──玄関のベルが、2回だけ、鳴った。


★ゆめのつづき
< 5 / 17 >

この作品をシェア

pagetop