短編集
ふぅ、とため息をつくと、また隣から何かが割れるような音がした。

どうやら男は今回、女から相当怒られるようなことをしたらしい。

恋愛という解釈の違いなんていうものは、生きていればいくらでも起こること。

結局は男と女、自分と他人。
相手の考えを理解することは不可能。

考えたって答えの出ることではないし、大体「恋愛感情」なんてものが不必要な僕には、考えることすらくだらない、無駄な行為だ。

僕にくだらないことをさせるなんて、よっぽどくだらない人間たちなんだな。

それならば最早生きていることすら無駄な人間なのかもしれない……そうに違いない。

僕は読みかけの本を置き、玄関の扉を開け、隣人宅のチャイムを鳴らした──




それから2日。

隣から痴話喧嘩の声は聞こえなくなったが、なにやら数人の男の声が聞こえていた。

それもすぐになくなり、僕はようやく僕の静かな時間を取り戻し、読書を再開する。

──ああ、すごく静かだ。

今は漂う鉄の香りよりも、この本の続きのほうがよっぽど気になって仕方ない。

手にこびりつくアカが本を汚そうとも、今さら読むのをやめるのは無理だろうな。



そういえば次の隣人は、いつクルのだろう。

今度は五月蝿くない人だといいと思う。



★隣人
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