王子に姫の恋情を…



ゴロゴロ



硬い廊下に低く響く映写機の車輪の音が鳴る中で

私は無言で歩いていた



チラッと横目で西田君を見ると
彼は鼻歌を歌いながら私が喋らなくても1人で楽しんでいた



どうしよう…

なんか、こういう沈黙って嫌だな


話題出した方がいいのかな?




「…西田君ってさ、何でこっちの高校に転向してきたの?」


最初の方は喉がかれて変な声になってしまったけど
何とか最後まで言い切った



『あー、何だか前の高校合わないような気がして
親に相談して一応地元だったこの高校にしたんだ
だからもしかしたらまた高校変わったり、自主退学したりするかも』


全然笑える話じゃないのに

まるで人事のように薄く笑いながら話す西田君


だけど私よりかしっかりと
自分を見ているところにちょっと感心した




…思えば
西田君と会話って言う会話をしたのって
今日が初めてかもしれない



私の中に嫌な思い出は根付いているけど

…なぜか西田君と言う人間自体はもう大丈夫みたいだ


足もがくがく震えないし
貧血の症状が出て意識が飛ぶこともない



もしかしたら
彼方と付き合っていることで
多少の免疫がついたのかもしれない



ふふっ



そう考えると
私が彼方によって変えられていっているようで
何だか嬉しくなる



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