汚れた街の汚れなき天使
デザートの眞子さんお手製タルトを食べ終えると先輩が低く唸った。
「ちっと傷をえぐるかもしんねーが、聞いてもいいか?」
その瞳はまりあだけを一直線に見つめている。
眞子さんと何を話したのかは知らないけれど、きっと自分について聞いたんだろう……自分の事を他人に教えてもらわなきゃいけないこの状況ってのがおかしいとはまりあはきっと気付かないんだろうけど。
両手ををグーにして握り、先輩を強い瞳で見返すまりあは必死だ。
「仕事は好きか?」
「仕事は……好きじゃない。だけどまりあはあの仕事しか出来ないし、お父さんが困るし……」
「じゃあ親父さんがもうやるなって言ったら仕事は辞めるだろ?」
まりあは少しだけ首をひねって考えた後、自分の意思を確かめるように、ゆっくり縦に首を振る。
きっと分かってるんだ。
やるな、なんて言われる日が来ない事。
なんて思いつつも……実は俺にも先輩の質問の意図がわかっていなくて、ただ成り行きを見守るしか出来なくて。
「明日も仕事だろ?」
「……うん」
「じゃあな、その後海人の家行け!!」
先輩の口から出た言葉は……想定外の一言だった。