cherry blossom Ⅰ
冷たくて真っ暗なこの世界に
急に光が漏れて辺りが明るくなる。
私は知ってる…この感じ…。


「恵ちゃん?どうしたの?」


ふと顔をあげると
愛しき人がこちらを見ている。
家族でも友達でもない
私が本当に捜し求めていた人だ。


「先生…誰もいなくて。
暗くて、怖くて、寂しかったっ!!!」


愛しき人は何も言わずに
静かに私を自分のほうに引き寄せた。
私もそれに逆らうことなく
彼の胸の中で溢れる感情を漏らす。


「俺がずっと側にいてやりたいけど…
駄目なんだよ。許されないんだよ。
ごめんな、恵。
俺がいなくても一人で大丈夫だよな?」


そう言うと小さな声で何かを呟き
私のおでこにキスをした。


また光が消え暗闇が戻ってくる。
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