徒事徒言
【嗚呼】
 他に言葉は見付からなかった。

 それを表現し得る語彙が自分の中に不足していることもあった。

 また例え語彙が豊富であったとして、どんな言葉を以ってしても今、目にしているモノの前では全てが徒言と化すだろうとも思った。

 魂を揺さぶる熱き想いが胸中に湧き上がり、眦から一条の涙となって伝い落ちていく。

 無為に過ごす日々――

 目覚める部屋は彩る何ものもなく味気無い。咽喉を通る食事にも味気を感じなかった。

 時を知る術も無く、朝か夜かも判然としない中で襲い来る睡魔に身を任せていた。

 徒事。目にするもの、耳にするもの……それら全てには何の意味も無いと思っていた――今、目前を覆うこの光景に出合うまで。

「嗚呼」

 幾度目になるだろう、その言葉が口から漏れ出た。
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