徒事徒言
【峨峨】
 あれは明け方だった。

 突然の轟音に驚き飛び起きると、完全武装の闖入者が周りを取り囲んでいた。

 訳の解らぬまま後ろ手に縛られ、蹴破られた扉から部屋の外へ連れ出される。

 階下へと辿り着くと、其処には頽れるように倒れたまま身動きしないモノがあった。その下に広がる染みのようなもの――辺りに漂う鼻を突く独特の臭いから、それが血溜まりだと知った。

「邪魔をしたから処分した」武装者の一人が言った。

 足を滑らせないよう注意を払い、肉親であったはずの亡骸を跨ぎ、外に停められていた武装車に乗り込まされる。走り出した車の中、後部窓へと目を走らせる――と、その向こう側で炎に包み込まれていく家並みが映った。

 やがて武装車は、峨峨たる稜線を臨むとその奥へと森林を分け入って進んでいった。
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