ショート・ミステリーズ!短編集その3
その時、一陣の風が木々を揺らし、陰鬱な調べを奏でた。

風の音の隙間に、か細い声が僕の耳に届いた。

僕は辺りを見回したが、黒い森の奥に動く物はない。

『**君……』

囁くような声は、僕の名を呼んでいた。

僕は目を細め土管の口を見つめる。
声はそこから聞こえてくるようだった。

渦を巻く秋風の向こう側、土管の口から、手首がスルスルと伸びてきた。

白い小さな手はしばらく探し物をするように左右に揺れ、土管の縁をがっちりと掴んだ。

そして、君の顔がゆっくりと出て来た。

まるで冬眠を終え、穴から顔を出した小動物のように、君の瞳は虚ろに揺れる。
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