ショート・ミステリーズ!短編集その3
「お嬢さんの方が、お美しいですよ。お名前は?」

「あ……須美と申します」

「その格好からすると、この色町の?」

「はい、『花木屋』で働いております」

智春様は、顎の下に指を当てて、悪戯をする童のような眼差しで、

「花木屋か……フウン、覚えたぞ」

「えっ? どういう意味でございますか?」

智春様は、ヒラヒラと手をお振りになり、

「さあ、楽しみにしていてください」

と、口になさると、踵を返し、また坂を下りなさったのです。


私は、その後ろ姿を、呆然と見送ったのでした。
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