ショート・ミステリーズ!短編集その3
その、三日後のことでございます。

勤めを終え、花木屋の裏口で、石段に腰かけて煙管を吹かしながら、私は智春様のお顔を思い出しておりました。

――あの邂逅は、もしかすると、夢うつつの出来事だったのではないか。

そんなことを考えていたときです。

薄紅色の堤燈の、淡い灯火にさざ波が立ち、私の前に、誰かが立つ気配を感じました。

顔を持ち上げると、そこに、智春様がいらっしゃったのです。

「まあ」

「須美さん、お久しぶりです」

私はさっと煙管を背中に隠しました。

「ハハハ、いいのですよ。それより、しばらく歩きませんか」

「えっ……今からですか?」

「エエ、お暇でない?」

私はぶんぶんと顔を振ります。

「イエイエ、大丈夫です、大丈夫です。私なんかで宜しければ」
< 60 / 74 >

この作品をシェア

pagetop