ショート・ミステリーズ!短編集その3
週に三日ほど、智春様は『花木屋』を訪れてくださいました。

私が勤めを終えると、共に夜の散歩に出掛けるのです。

私はそれを心待ちにするようになりました。

女将様にも、
「須美ちゃん、最近いい顔してるね。男でも出来たのかい?」
と声をかけられたりもしました。

智春様のお家柄のことを考えて、私はただ微笑むだけにしておりました。



夜の散歩が二週間目を迎えた日。

小川のほとりにあった、顔の半分崩れたお地蔵様の前で、私たちは腰を下ろしました。

川面では、破れた提灯が枯草に絡まりながら流れてゆきます。

「実はね、須美さん」
と、智春様はおっしゃりました。
「来週にでも、うちの親父に会ってもらおうと思ってるんです」

「えっ、どういうことでございますか?」

私は膝を抱えて、ポカンと口を開けました。

「祝言を上げよう。ぼくは君に、ぼくの妻になってほしいと思っています」
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