ショート・ミステリーズ!短編集その3
しかし、私の危惧は、不幸にも的中してしまったのです。

奇しくもその晩は、智春様と初めてお会いした時と同じ、見事なおぼろ月夜でした。

いつものように「花木屋」の裏で智春様に迎えに来て頂き、私たちは小さな森の中を歩いていました。

「須美さん」智春様はおっしゃいます。
「いつもの小川から、脇の林道に少しそれたところに、古い神社を見つけたのです」

「神社?」と私は聞き返しました。

「エエ。それが、凄く風流で、趣深くて。須美さんと一緒に行ってみたいと思ったのです」

「じゃあ、行きましょう」

私たちは、夜風の向こう側に賑やかな色町の喧騒を聞きながら、寂しげな林道に入ってゆきました。
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